19.名探偵サーロイン・ホームズ(前編)

【登場人物】  
サーロイン ロイヤルレンジャーズのリーダー。サーは敬称。
三洲次 元盗賊だった日本男児の侍。発音は「みすじ」。
接近戦最強のくノ一。でも細かい事は大嫌い。
ロース こんな名前だが細身で美人なエルフの女魔法使い。
ランプ 財宝一筋なエルフの司教。パーティーの知恵袋。
ブリスケット 日本オタクのエルフの僧侶。あだ名は「ブリ助」。

読了時間 (目安):約18分(動画無)約21分(動画込)
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━━━━ 深夜のル'ケブレスの迷宮
     1階.....

1階の南側にあるその通路は、闇の底へと通じているかの如く暗く深く長かった。

その暗闇の通路にある唯一の明かりは、それぞれ少し離れた場所に置かれた3つのランタンのみであった。

そして、その小さな明かりの傍では、幾人かの男女が石を蹴ったり床の砂を薙ぎ払うなどして、地面を調べていた。

??? 「何か見つけたか?」
??? 「いや、何も無い」
??? 「よし、今度はそっちの床を調べよう。
 エレン、おまえはあっちの壁を調べてくれ」


エレンと呼ばれた女性は、床の上に置かれたランタンの1つを手にして、1人で壁の方に向かった。

黒色の魔法使いのローブを身に纏まい、ブリュネット(栗毛色)の髪をした細身のその女性は、
薄暗い灰色の壁にランタンの光をゆっくりと滑らせながら、壁の隅々を調べだした。


ふと、エレンは誰かがランタンに火を付ける微かな音を聞いた。


誰かが火を付け直したのかしら...?


エレンは仲間の方を見たが、全員が床を調べており、そのような様子は見て取れなかった。


気のせいだったの...?


...そう思って、再び壁を調べ始めてしばらくした時だった。


突如、エレンの耳に仲間たちの叫び声が聞こえた!!

その叫び声は苦しみ錯乱がない交ぜになった、恐怖に満ちた声だった!!
さらにランタンが次々と床に倒れて割れる音が続いた!!

エレンは驚愕の表情を見せ、震える手で声のした方をランタンで照らした。

だが仲間のランタンが全て消えて、エレンが持つ明かりは闇に包まれた通路しか映し出さなかった。

その時、どこからか空気を震わせるような低い音色が通路に響いた。

誰かが笛を吹いたのだ!

エレンには何が起きたのか分からず、ただただ恐怖に怯えた表情を見せて、通路に立ち尽くした。



そして気付いた時には、エレン1人で泣きながら漆黒の通路を走って逃げていた。



体験したことの無い恐怖、仲間を置いて逃げる後悔と悲壮......、


そして背後から通路に響き渡る、苦痛と絶望に満ちた仲間たちの断末魔を背にしながら......、




ただ1人闇の中を.........




………………………



………………



………



 

♪BGM シャーロク・ホームズの冒険
オープニングテーマ 『221○ Baker Street』


(※)諸事情により画像はボカしています。
(※)何のことか分からない方は無視して下さい。

 




【目次】

1.名探偵サーロイン・ホームズ登場

2.もう1つの紐




1.名探偵サーロイン・ホームズ登場


━━━━ 冒険者の宿 早朝.....

サーロイン 「三洲次、申し訳ないが、早い時間だが起きてくれないか」


朝方、三洲次が目覚めると、サーロインが既に装備を手にしてベッドの横に立っていた。
三洲次は心地良い眠りを乱され、驚いてサーロインを見上げた。
きっとその顔には非難するような表情も交じっていただろう。

三洲次 「んあ……?」
サーロイン 「いきなり起こしてすまない、三洲次。
 しかし今朝はみんなが同じ運命だ。
 まずロースが叩き起こされ、彼女がその仕返しを俺にして、そして俺は君に、という感じだ」
三洲次 「どうしたんです……? ボヤでも出したんですか……?」
サーロイン 「いや、依頼人だ。
 どうやら若い女性が大変な興奮状態でやって来て、どうしても我々に会いたいと言っているらしい。
 とりあえず酒場で待ってもらっている。
 さて、この早朝にリルガミンで若い女性がまだ寝ている人を叩き起こすなんて、どう考えても異常事態だ。
 これは面白い依頼になりそうだから、さっそく全員を招集しているんだ」
三洲次 「マジっすか……」


三洲次は眠い目をこすりつつも、数分で普段の装備を手に取ると、
サーロインと手分けして他の部屋にいるメンバーを起こして回り、
全員ギルガメッシュの酒場に向かった。



━━━━ ギルガメッシュの酒場.....

酒場の扉を開けて中に入ると、黒い魔法使いのローブを着てフードを頭から被っている若い女性が、
先に酒場に来ていたロースに保護されて壁際に座っていた。

サーロイン 「お早いお着きですね。
 私がパーティーのリーダーを務めるロインです。
 こちらに居る4人はメンバーの三洲次、桃、ブリスケット、ランプ。
 彼らの前では私に話すのと同じように、遠慮なく話して下さって大丈夫ですよ。
 ほお、これはありがたい。
 ロースが気をきかせて、暖かい料理を既に注文しておいてくれたようだ。
 こちらに来て一緒に食べましょう。
 震えておいでのようですし」
若い女性 「寒くて震えているのではありません……」


その女性は勧められた椅子に座りながら、弱々しく言った。

サーロイン 「では、どうしてでしょう?」
若い女性 「恐怖です、サー・ロイン……、
 身も凍るほどの恐怖です!!」


彼女はこう話しながらローブのフードを外したので、激しく動揺している様子がはっきりと見て取れた。
顔は引きつって青ざめ、恐怖に怯えた目は、追われている動物の様にたえず揺れ動いていた。
顔立ちと体つきは20代の様であったが、栗毛色の髪はひどく乱れ、げっそりとやつれた表情からはとても20代には見えなかった。

サーロイン 「もう心配はいりません」


サーロインは身を乗り出して、安心させるように言った。

サーロイン 「すぐに問題を解決してさしあげましょう。
 我々に任せればなんの問題もありません。
 迷宮の1階に残された仲間たちを救助して来ればよろしいのですね?」
若い女性 「どうしてご存知なのですか?!」
サーロイン 「まぁまぁ、落ち着いて下さい。
 別に魔法でも何でもありません。
 リルガミンはここ数日ずっと晴天でした。
 しかし、あなたのローブには湿った泥が付いています。
 街で付いた汚れなら、乾いた砂や土のはずです。
 つまりその泥は、湖のせいで湿気が高い1階の洞窟で付いたのものでしょう。
 しかもまだ湿っているので、あなたは迷宮から戻って来られたばかりですね?
 その様な状況下で1人で来た依頼となれば、救助要請と考えるのが自然です」
若い女性 「すべて仰る通りです、サー・ロイン。
 昨夜まで仲間たちと迷宮を探索していて、先ほど私だけ町に帰って来たばかりなのです。
 しかし、私には誰も頼れる人がおりません。
 それで絶望に打ちひしがれていた時に、ふと、酒場の噂で聞いたあなた方のことを思い出しました。
 あなた方はこの時代において大変珍しい善のパーティーだそうですね。
 お願いです!
 あなた方とは面識がありませんが、それでも私を助けていただけないでしょうか?!」
サーロイン 「えぇ、喜んであなたのお力になりましょう。
 その為にも、まずは事件を理解する手助けになりそうなことを、ひとつ残らず私たちに話してください」
若い女性 「あぁ、ありがとうございます!」


パーティーのメンバーは食事を取る手を止めると、女性の話しに集中した。

エレン 「私はエレンと申します。
 イングランドの貧しい田舎から富を求めてこの地に来て、訓練所で仲間と出会い、あの迷宮に挑戦をしていました。
 幸い仲間には恵まれ、全員が優秀な冒険者でしたので、しばらくは問題無く迷宮を探索し、
 幾つかの宝箱も見つけて金銭的にも潤い始めました。
 しかし昨晩起きた恐ろしい出来事が、私の大切な仲間を全員奪ってしまったのです」


サーロインは目を閉じて、椅子にもたれかかっていた。
しかし、ここで目を開けて依頼人をちらりと見た。

サーロイン 「細部まで正確にお願いします」
エレン 「それは簡単です。
 昨晩の恐ろしい出来事は、何もかも脳裏に焼きついていますから。
 私たちはかつて闇市があったエリアを調べていました。
 そこには2つのドアが向き合った場所があり、片方には刃物で『キケン』と彫られていました。
 私たちは安全を期すため、どちらのドアにも入らず、最初はカンテラの明かりを頼りに通路を調べていました。
 その通路は大変長く、奥の方は闇に溶け込んで見えないほどでした。
 私たちはまだロミルワを使えず、呪文を節約する為にミルワも唱えていかなったので、それで余計暗く見えたのです」
サーロイン 「非常によく分かります。
 我々もここに来た頃はそうでした」
エレン 「しばらくの間、私たちは思い思いに分かれて通路を調べていました。
 暫くすると、どこかでランタンに火を付ける音が聞こえました。
 そしてその直後、暗闇を切り裂くように、恐怖におののいた声が聞こえたのです。
 仲間の声でした。
 私は声のした方を振り返りました。
 しかし恐ろしさで何も出来ず、声のした方をじっと見つめることしか出来ませんでした。
 その時、どこからか低い笛の音が聞こえたような気がしました。
 何が起きたのか全く分かりませんでした。
 とにかく震える手で持っていたランタンを前へ向けると、仲間が私の方へ来るのが見えました。
 仲間たちの顔は恐怖で真っ青で、両手は助けを求めてもがき、体全体に傷を負ってふらふらと揺れていました。
 そして私の前まで来たところで、全員が力尽き、床に倒れました。
 仲間は全員、体中に傷を負い、激痛に苦しみ、身をよじらせ、手足は激しく痙攣(けいれん)していました。
 私はどうしたら良いか分からず、床に座り込みました。
 すると突然、仲間の1人が2度と耳から消えそうもない声で叫びました。
 『エレン!!
  紐が!!
  まだらの紐が!!』
 さらに仲間の1人が最後の力を振り絞って立ち上がると、
 『逃げろ!!
  すぐ逃げるんだ!!』
 そう言って私を押し飛ばしました。
 私はそれで非常に混乱し、気が付くと長い通路を無我夢中で走って逃げていました。
 そして、それが仲間を見た最後の光景になってしまったのです」
サーロイン 「ちょっとよろしいですか?
 ランタンを付ける音と、笛の音を聞いたのは間違いないですか?」
エレン 「私にはそれらが聞こえたという印象が強く残っています。
 しかし迷宮は時々魔物の咆哮がしており、聞き間違えた可能性はあります」
サーロイン 「それで、あなた自身は仲間の死因についてどうお考えですか?」
エレン 「私にはまったく想像がつきません」
サーロイン 「では、紐と言った意味はどうお考えですか?
 まだらの紐というのは?」
エレン 「分かりません。
 錯乱状態で口から出たうわ言にも思えます」


サーロインは、なんとも言えないとばかりに首を振った。

サーロイン 「これは、なかなか手ごわい謎ですな。
 我々もいずれその場所へ行くことになると思いますが、
 あなたの苦悩を少しでも早く取り除くために、すぐにでも調査と仲間の救助を開始致しましょう」
若い女性 「あぁ、サー・ロイン、ありがとうございます!」
サーロイン 「質問はここまでにしましょう。
 せっかくの朝食です、冷めない内にお食べ下さい」
若い女性 「いえ、遠慮します。
 とても食事が喉を通る状態ではありませんので」
サーロイン 「では、宿に戻ってお休みなさい。
 一睡もせずに迷宮で夜を過ごされたので、安息が必要です。
 ロース、エレンさんを宿まで送ってもらえるかな?」


エレンロースに付き添われて、力ない足取りで酒場を後にした。

サーロイン 「さて……」


サーロインは仲間の方を向くと、椅子にもたれかかりながら尋ねた。

サーロイン 「みんなはこの出来事について、どう思う?」
ブリスケット 「非常に暗い邪悪な事件のように思えやすね」
三洲次 「まさしく暗く邪悪な事件です」
サーロイン 「ランタンや笛の音はどうだろう?
 仲間の死に際の非常に奇妙な言葉は?」
ランプ 「全く分かりません」
ブリスケット 「現場に行かなきゃ、こいつぁ皆目見当も付きやせんぜ」
サーロイン 「そうか………、
 では、ロースが戻って来たら、朝食をとって出発することにしよう」

 




それではここで、前回の探検を振り返ってみたいと思います。


━━━━ 前回のあらすじ

現在は、1階の入り口の真北にある扉の先を探索中でした。
そこは1階の右下に繋がっており、エリア全体に渡って通路と扉と玄室が複雑に絡み合った構造をしています。

そして、このエリアを東西に横断する通路の......


...一番奥にある扉の前まで来ました。

前回は、左側の扉の中の探索が完了したところで終わりました。

今回は、右側の扉の探索から再開します。







━━━━ 迷宮1階
     前回の通路の一番奥の扉


三洲次 「これが『キケン』と彫られている扉ですね」
ブリスケット 「するってぇと、ここら辺に仲間の死体が転がってるんでは?」
ランプ 「ざっと見渡した限り、血糊はありますが………死体らしい姿は見えないです」
ロース 「もう魔物に食べられたのかも」
サーロイン 「あるいは、誰かがどこかに移動させたのか……」
ブリスケット 「移動させたんなら、この扉の中が怪しいですぜ」
ロース 「この中はどうなっているのかしら?」
三洲次 「何か危険物を保管しているのかも」
ランプ 「それなら『キケン』なんて刃物で掘らず、ちゃんとした看板で警告をするでしょう」
ロース 「じゃぁ、これは脅しの可能性もあるわね。
 他人に入られないための」
ブリスケット 「そいつぁ、十分にあり得やすな」
サーロイン 「この紐は何だ?」
ロース 「え?」


サーロインは扉の横に垂れ下がっているを指差した。
は壁と同じ薄暗い灰色をしており、保護色のせいで気付きにくくなっていた。

ロース 「よく気付いたわね」
ブリスケット 「『まだらの紐』ってぇ、これのことっすか?」
三洲次 「でも『まだら』じゃなくて、ほぼほぼ灰色一色だよ、これ」
ランプ 「とは言え、これ以外に紐っぽいのは無いですし……」
ブリスケット 「引っ張ったらどうなりやすかね?」
三洲次 「試しに引っ張ってみますか?」
ロース 「止めときなさいよ。
 エレンのパーティーが壊滅しているのよ?
 迂闊にいじったら危険だわ」
三洲次 「おっと、そうでしたね」
サーロイン 「いや、これはとても興味深いぞ」
三洲次 「え?」


サーロイン紐の上の方を見ながら言った。

サーロイン 「ほら、見えるだろ?
 上の方に換気用の小さな開口部があり、そのすぐ上のフックに紐が括り付けられている」
ロース 「あら、本当ね」
サーロイン 「これだと紐は引っ張れないな」


サーロインを手に取ると勢いよく引いたが、ビクとも動かず、何も起きなかった。

サーロイン 「ほら」
ブリスケット 「ほんで、これのどこが興味深いんすか?」
サーロイン 「実に奇妙だ。
 換気口の側に動かない紐を垂らして、何に使うのか?」
ロース 「想像もつかないわ」
ランプ 「何か他の物と組合せて使うのかも知れないですね」
サーロイン 「その判断が妥当だな」
ブリスケット 「するってぇと、他にも何か見落としてるんでは?」
三洲次 「エレンのパーティーの死体も、まだ近くに残っているかも知れないですし、
 もう少しこの通路を調べてみますか?」
ロース 「そうね」
サーロイン 「………………………………」


サーロイン以外の5人は『キケン』と彫られたドア周辺の通路や壁を、思い思いに調べ始めた。

一方、サーロインはフックを交互に見ていたが、しばらくすると小さく呟いた。

サーロイン 「これは、なかなか手の込んだ罠だな」
   
ブリスケット 「何か言いやしたか?」


サーロインは一瞬考えた後、ブリスケットの側まで来てかがみ込み、小声で話しかけた。

ブリスケット 「どうしやした?」
サーロイン 「これが罠とすれば、これはかなり狡猾な罠だ。
 どちらにせよ、このフロアに罠を仕掛けるのは海賊どもだろうな」
ブリスケット 「ま、そうっすね」
サーロイン 「なぁ、ブリ助?
 このエリアの北側で、ガリアンガードたちが宝箱を隠していた時の会話を覚えているか?」
ブリスケット 「へ?
 いや、覚えてねぇっす」
サーロイン 「奴らはどっかのパーティーが宝箱を漁っている、と言っていた」



………(ここから回想)………

ガードB 「うんしょ、うんしょ……、
 あのなんとかレンジャーってのがこっちに来ないからと宝箱を移したら、
 まさかこっちでも盗まれるとはなぁ……」
ガードC 「よいしょ、よいしょ……、
 どんな奴らか知らねぇが、いずれ落とし前は付けてやらねぇとな」
ガードD 「ゴホッ…ゴホッ……、
 いや、砂ボコリがひでぇなぁ……」


第18話「滅びし酒場が招く光と影の狂宴」より

………(ここまで回想)………

   
ブリスケット 「そいつぁはエレン嬢のパーティーのことなんでは?」
サーロイン 「だろうな」
ブリスケット 「それがどうかしやしたか?」
サーロイン 「もしブリ助が海賊の立場なら、どう落とし前を付けさせる?」
ブリスケット 「そうっすねぇ………ま、見つけ出して、とっちめやすな」
サーロイン 「そうだな、それが普通だ。
 だが今回は違う」
ブリスケット 「なぜっすか?」
サーロイン 「奴らは『どんな奴らか知らねぇが』と言っていた」
ブリスケット 「それが?」
サーロイン 「我々への襲撃に失敗し続けている状況で、またも実力が分からないパーティーの前に無闇に出て行っては、
 同じ失敗を繰り返しかねない。
 もっと慎重にやるはずだ」
ブリスケット 「じゃ、ロイン殿ならどうしやすか?」
サーロイン 「自分なら安全圏から相手の実力を測る」
ブリスケット 「どうやって?」
サーロイン 「その答えがあの紐だよ」
ブリスケット 「へ?
 どういう事っすか?」
サーロイン 「あいつらの中に、こんなズル賢い仕掛けを考え付く奴がいるとはな……」
ブリスケット 「……??」
サーロイン 「ブリ助はそのまま通路を調べ続けてくれ」


サーロインはそれだけ言うと、軽く跳ぶようにブリスケットから離れ、紐とは反対側の壁へ移動した。
ブリスケットは軽く肩をすくめると、言われた通りに通路を調べる作業に戻った。

サーロイン以外の5人は、床に転がっている石や岩を蹴飛ばしてどかしたり、壁の砂を払ったりして目ぼしい物が無いか調べ続けた。
しかし他の仕掛けも、エレンのパーティーの死体も全く見つからず、無為に時は過ぎていく。
その間もサーロインだけは壁に寄りかかって紐を凝視し、そこから微動だにしなかった。

ロース 「ねぇ、ロイン!!
 あなたも手伝ってよ!!」
サーロイン 「…………………………………………」


ロースが大声でサーロインに声をかけた。
だがサーロインはそれには答えなかった。
サーロインに無視されたロースは、離れた所にいるブリスケットに話しかけた。

ロース 「ねぇ、ブリ助、ロインは何をやってるの?」
ブリスケット 「知らねぇっすよ。
 何か考えがあるんでは?」
ロース 「何よ、意味不明ね」
三洲次 「そろそろ切り上げますか?」
ロース 「そうね、他には何もなさそうだわ」


と、ロースが返した時だった。
燃える油焼ける金属臭いがどこからともなく漂ってきた。

どこかで誰かランタンを点けたのだ!

ロース 「なに、この臭い?」
ランプ 「そう言えば……」


サーロイン以外の5人が臭いの元を探そうと互いに辺りを見渡していると、今度は別の音が聞こえてきた。
それはヤカンから小さな蒸気が連続的に噴出しているような、非常に微かな柔らかいだった。

突如、サーロインは先ほどのの側に素早く駆け寄ると、
段平の鞘を激しく殴り続け始めた!!

サーロイン 見たか、諸君っ!!
   
三洲次 「え?」
ロース 「どうしたのよ?!」
   
サーロイン 見たか!?


だが、5人の目には何も見えなかった。
その代わり、空気を震わせるような低い笛の音を全員が聞いた。

サーロインは叩くのを止め、の先の換気口を見上げた。


突如、今まで耳にしたこともない、非常に恐ろしい叫び声迷宮の静寂が破られた!!
それは苦痛恐れ怒りが全て1つに入り混じった、恐ろしい悲鳴のようなしわがれた叫び声であった!!

だが、やがて叫び声の最後の残響は消え失せ......、

......元の静寂が戻ってきた。

5人は互いに顔を見合わせながら、サーロインの側に集まって来た。

ロース 「いったい何がどうなったの?」
サーロイン 「エレン達の仇を取ったんだ」
ロース 「え?」
サーロイン 「そしておそらく、結果的にはこれが最善の仇討ちになったはずだ。
 この『キケン』と彫られた部屋に入ろう。
 いつでも戦える態勢を忘れるな」


厳しい顔つきでサーロイン段平を鞘から抜き、そして先頭に立っての前に立った。


サーロインは2度ノックしたが、中からは応答がなかったため、ノブを回して中に踏み入った。
残りの5人は各々武器を手にして、彼の後ろにピッタリと続いた。



奇妙な光景が目に飛び込んできた。

その部屋は広く大きな場所で、ほとんど物は無かったが、ドアの前にだけ、テーブルと椅子、そして木箱が1つ置かれていた。
部屋の大きさとポツンと置かれた小さなテーブルの対比は、その部屋がより広大であり、
対して唯一置かれた家具はミニチュアの様に小さいという印象を与えていた。

テーブルの上には遮光板を半分開けたダークランタンが置いてあり、広大な部屋に虚無の明かりを投げかけている。
そしてテーブル脇の木の椅子には、1人のガリアンレイダーが座っていた。

ガリアンレイダーはパーティーが入って来ても無言でピクリとも動かず、顎を突き上げ、
恐ろしく硬直した眼つきで天井の角の一点を見つめていた。

その海賊は暗い緑と黄色のラインが入った帆布製の衣類を身にまとっており、
膝の上には見たこともない細長い金色の笛が乗っていた。

さらに、その身体には黒色や褐色の斑点がある奇妙な茶色の紐が幾つも巻いてあり、
それらは全身にきつく巻き付いているように見えた。


その姿を見て、サーロインはつぶやいた。


サーロイン 「紐だ………まだらの紐だ」



三洲次が様子を伺おうと1歩前に出た瞬間、ガリアンレイダーの全身に巻かれた紐が動き始めた

髪の毛の間から、肩越しから、腰の横から......
....あらゆる箇所から、ひしゃげた菱形の頭と膨らんだ首をした忌まわしいが身を起こした!!



サーロイン 「アナコンダだ!!」


サーロインは叫んだ!

サーロイン 「さっきの鞘の何発かで蛇たちは身の危険を感じ、目に入った動く者を本能的に排除したのだ!!
 ガリアンレイダーごときのH.P.では、4匹に襲われたらひとたまりもなかっただろう!!」
ロース 「じゃぁ、エレン達を襲ったのも……」
サーロイン 「こいつらだ!!
 レベルの低いパーティーには、あの数でも十分な脅威になる!!
 しかもそれが不意打ちなら、なおさらだ!!」


全身に巻き付いていたアナコンダ達は、ゆっくりとガリアンレイダーから離れ、新しいターゲットに向かいだした。

サーロイン 「エレン達の仇討ちは、まだ終わっていない」
三洲次 「えぇ、こいつらにも十分責任はありますよ」
「仕上げようぜ」







ロース 「ねぇ、どうしてアナコンダがあの紐から襲って来ると分かったの?」
サーロイン 「海賊たちは、このエリアで宝箱を漁っているパーティーを退治したかったが、
 パーティーの実力が分かっていなかった。
 だから奴らは、まずは適当な魔物をぶつけて、相手の実力を探ることにしたんだ。
 そこまで考えてヒントになったのが、エレンが聞いた『まだらの紐』という言葉だ」
ブリスケット 「アナコンダ……暗かったんで、彼らには不確定名称『まだらの紐』になったんすね」
サーロイン 「ただ、アナコンダを仕向けようにも、自分達が近付いては身の安全が図れない」
三洲次 「そうか。
 それで自分達はこの部屋に籠り、あの換気口を通してアナコンダを送り込んできたのか」
ロース 「でも、いくら奇襲とは言っても、4匹程度でパーティーが全滅するかしら?」
サーロイン 「エレン達を襲った時も4匹だったのかは分からないが、そもそも全滅させる必要はない。
 奴らの目的はパーティーの実力を知ることだ。
 レベルの高いパーティーなら、アナコンダに奇襲されてもアッサリ返り討ちにする。
 だがレベルの低いパーティーだと、奇襲を受けると慌てふためく。
 そして……エレンたちのパーティーは混乱に陥った。
 レベルの低いパーティーと分かれば、後はしめたものだ。
 自分達が出て行って、直接トドメを刺せばいいのだからな」
ランプ 「なるほど……すると、あの笛の音は?」
サーロイン 「パーティーを襲う時にアナコンダが残っていては、自分達も被害を受けるリスクがある。
 だから呼べば帰るように訓練してあったのだろう」
ランプ 「水を差すようですが、蛇って耳が無いから、音は聞こえないですよ?
 振動音は感じるらしいですが…」
サーロイン 「じゃぁ、あのガリアンレイダーの膝の上にある笛は、蛇にも伝わる特注品じゃないのかな?」
ランプ 「へぇ……、じゃぁ、これ、値打ち物じゃないですかね?」
三洲次 「蛇使いが使う笛と同じですね」
ランプ 「あ、それ、蛇は音じゃなくて、笛の動きに反応しているだけらしいですよ。
 さっきも言った通り、蛇に耳は無いので」
三洲次 「そうなの?
 てっきり音に合わせて踊ってるのかと思ってた」
ロース 「でも、これでエレン達の仇は取れたわね」
サーロイン 「いや、まだだ」
ロース 「え?
 どうして?」
サーロイン 「ガリアンレイダーは海賊の中でも下っ端だ。
 そんな奴が1人でこんな手の込んだ事をするとは思い難い。
 こいつはただの実行役だ」
ブリスケット 「するってぇと……」
サーロイン 「指揮を執っている奴が他にいるはずだ」
ランプ 「そいつを倒して、やっと本当にケリが付けられる……ってことですね」
サーロイン 「2度とバカなことをさせないためにもな」
三洲次 「この近くに居るかな?」
サーロイン 「可能性はゼロではない。
 それに、仲間の死体もまだ見付かっていない」
ロース 「じゃ、この辺りを探らないとダメね」
サーロイン 「うむ」






2.もう1つの紐




━━━━ 1階 南にある大きめの部屋.....


部屋の中は広かったが、中には先ほどの家具類以外には目ぼしい物は何も無く、
たまに木の棒や布切れが床に落ちているだけであった。

ブリスケット 「なんすかね、この部屋?」
サーロイン 「ここが闇市だったのなら、この広さだと、ここは個人の店が集まっていたエリアだろうな」
三洲次 「すると、この木の棒と布で、簡素な店構えを作っていたのかな?」
ランプ 「さっきのガリアンレイダーの側に木箱がありましたが、中は空っぽでした」
サーロイン 「そこにアナコンダを入れていたんだろ」
ロース 「とりあえず、他に海賊は居ないわ」
ブリスケット 「エレン嬢の仲間たちの死体も無ぇですぜ」
サーロイン 「では、別の場所を探してみよう。
 ここから外へ出る扉は幾つある?」



ブリスケット 「入り口付近に扉が2個、奥にも1つ、全部で3箇所っす」
ロース 「どれから入る?」
サーロイン 「そうだなぁ……とりあえず入り口に近い方から順番に入ってみるか」


と言う訳で、まずは......、


...入り口に一番近い扉から。

ガチャッ......        ← 扉を開けた音


三洲次 「中は通路です。
 しかも分岐してますよ」
サーロイン 「手前の右へ曲がる道の先はどうなっている?」


ランプ 「行き止まりですね」
サーロイン 「なんだ。
 じゃ、奥の左へ曲がってる道の先は?」


「奥に扉が見えるぜ」
サーロイン 「まだ先があるのか」
ロース 「入ってみる?」
サーロイン 「う~~ん………万全な状態なら奥へ進んでも良いが、
 多少消耗しているから、こっちは一旦ここまでにするか」
三洲次 「じゃ、さっきの部屋に戻りましょう」


ちょっと奥に進み過ぎている感じもあったので、こちらはここまでにして......、


...先ほどの部屋に戻りました。

サーロイン 「隣の扉の中も軽く見てみるか」


三洲次 「こっちの扉ですね」


ガチャッ......


部屋の床は一面に砂ぼこりが積もっていたが、珍しくその上には何本かの空の酒瓶が転がっていた。

だが、それ以上に他の部屋と大きく異なる点として、大量の木箱が壁際にたくさん積み上げられていた。

ランプ 「これは木箱の中にアイテムが隠されている可能性が大ですよ!!」
ロース 「どうかしら?」
ブリスケット 「ってか、ここにある木箱って、さっきアナコンダを入れていた箱と同じタイプですぜ」
三洲次 「じゃ、この箱全部にアナコンダが入っているのかな?」
ロース 「え?
 それ、ちょっと気色悪いわ……」
サーロイン 「ま、そこは箱を叩けば分かるだろ。
 アナコンダが入っていたら、中で暴れるさ」
三洲次 「つまり調べる、ってことですね……」
ランプ 「もちろんです!
 では、片っ端から調べましょう!!」
ロース 「ランプのモチベーションが俄然アップね」


6人は手分けして、を叩いたり揺らしたりしながら、壁際に積まれた木箱を1つ1つ調べだした。

ブリスケット (パカッ)どれも空っぽですぜ」
三洲次 (パカッ)えぇ、空き箱ばかりです」
ロース (パカッ)こっちもよ」
ランプ 「根気強く調べるんです!!」


6人が木箱の中を確認するのに夢中になっていると、
三洲次の側にある木箱の間から、何か細い物が姿を現した。

それはゆっくりと木箱の隙間から伸びていき、三洲次の足に巻き付きながら、上半身の方へ上がっていく......。

三洲次 「………………ん?
 何か下から……」


三洲次が足回りを見ると、緑色の細長い物ヌルヌルと登ってきた。

三洲次 わあああぁぁっ!!
 ロインっ!!
   
サーロイン 「え?」
   
三洲次 ロインっ!!
 紐がっ!!
 ヌルヌルの紐がっ!!
   
サーロイン はあ??


三洲次 うわあああぁぁっ!!!


その細い物三洲次を突き刺そうとしたので......、


...三洲次は足を振って払い飛ばした!!

三洲次 「なんだ?!
 なんだぁっ!?
   
ロース 「なに? あれ?」
サーロイン 「クローリングケルプだろ」
ランプ 「もしかして、あれも海賊が用意した罠でしょうか?!」
サーロイン 「たまたまじゃね?」
ブリスケット 「ロイン殿、急に推理が雑になってやすぜ」


そして、木箱の隙間という隙間から、クローリングケルプが姿を現した!!


三洲次 「ビックリしたなぁ!!」
ロース 「こいつら、どこにでも居るわね」
ランプ 「囲まれましたよ」
サーロイン 「しょうがない……」


サーロイン 「…蹴散らそう」


サーロイン 「よっと」


「ほいよ」


三洲次 「驚かすなって!!」
   
ランプ 「もう余裕ですね」
サーロイン 「もはやザコだからな」


サーロイン ぐわぁっ!!
   
ロース 「ザコねぇ……」
ブリスケット 「油断大敵っすな」
「ちっ、情けねぇなぁ…」


ぐぎぃっ?!


ほぉごっ!!
   
ロース 「人のこと言えないでしょ……」
ランプ 「桃って油断すると、すぐこうですね……」
ブリスケット 「油断大敵っすな……」


てめぇらあああぁぁっ!!!
ケルプD  …バシュウウウゥゥッ!!!


ざけんじゃねええぇぇっ!!!
ケルプE  …シュパアアアァァッ!!!

ブリスケット 「メチャクチャやり返してやすぜ……」
ランプ 「桃って、いつもこのパターンですね……」




三洲次 「片付けました」
サーロイン 「無駄に消耗してしまったな……」
ランプ 「しかし、皆さん!!
 魔物が居たということは……」


ランプ 「…この部屋には金貨が……」


ランプ 「………………………………」
ランプ 「ええぇぇぇ………」


本当に相手にするだけ無駄な敵だ......。



邪魔者を片付けた6人は再び木箱を1つ1つ調べ始めた......、が......、

ブリスケット 「ロイン殿、箱の数が多過ぎるっす。
 疲れやした」
三洲次 「空き箱ばかりで気が滅入ってきましたよ」
サーロイン 「じゃ、一旦箱を調べるのは中断するか?」
ランプ 「何を言っているんです!
 頑張って戦ったんですから、何か一つぐらい持って帰らないと、ただの徒労です!!
 根気強く調べるんですよ!!」
ブリスケット 「さっき手に入れた笛で十分じゃねぇっすか?」
ロース 「私もちょっと休みた~い!」
サーロイン 「オーケー、多数決で小休止だ」
ランプ 「えぇぇ………」
サーロイン 「気分転換に部屋の構造の方を調べよう。
 中はどうなっている?」


ロース 「一番手前の扉は入って来た扉だから、
 奥の方に扉が2つあるわね」
サーロイン 「ここも、まだ奥に行けるのか。
 その左側のくぼみは?」


ブリスケット 「ただのくぼみっす」
サーロイン 「なんだ」


ロース 「それで、次はどうするの?」
サーロイン 「そうだな………今の戦闘で大分消耗したので、これ以上奥へ行くのは避けるか」
三洲次 「えぇ、余力が残っている内に戻って、出直しましょう」
ランプ 「絶対戻って来るんですよ!
 残りの箱を調べるんですからね!」
ブリスケット 「この酒瓶って、なんすかね?」


ブリスケットは床に転がってる酒瓶を足で軽く蹴りながら言った。

サーロイン 「海賊どもがここで酒でも飲んで時間を潰していたんだろ」
ブリスケット 「じゃ、ここで待ち構えていたら、エレン嬢たちのパーティーを襲った奴らが来るんでは?」
ランプ 「昨晩すでに襲撃を終えてますから、どうでしょうね?」
ロース 「でも、ガリアンレイダーが残っていたから、まだ引き揚げていないんじゃない?」
サーロイン 「その可能性が高いな。
 夜にもう一度ここに来て、正体を見てやるか」
三洲次 「えぇ、決着を付けてやりましょう」





 

後編へつづく。

 

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名前 LV H.P. コメント
サーロイン 5 37 18 17 18 16 18 15 0 1 段平より杖を持ってバリツで戦った方がイイのでは?
三洲次 5 49 18 18 18 18 18 15 0 1 そう言えば、ワト○ン役がいなかったな、今回…。
5 33 18 16 18 18 16 18 0 0 #1の頃に比べて、ダメージを喰らいやすくなったな…
ロース 5 27 16 17 18 18 18 11 0 0 ディオスが生命線ならカティノ・マハリトはその防護壁。
ランプ 5 20 12 18 18 13 18 16 0 0 お金を一番使う1階で金を出さない敵がいるってヒドい…
ブリスケット 5 40 17 18 15 18 18 14 0 0 実はサントラまで持ってるファンです。どうでもいいか…

アイテム入手: 8/109


【更新履歴】
2024年 9月 7日:次ページへのリンクを設定しました。
2024年 9月 4日:キャラクター名の間違いを修正しました。
2024年 8月24日:本公開。
2024年 8月17日:プレ公開。